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【小説】「公衆便所男⑱」

 私は今、図書館のトイレットに潜んでいる。
 浮浪者になりすまし(というか、この時空に飛ばされてきた時には既に浮浪者ファッションだったのだが。)私は「私」を待った。
 既に壁には、

「Hello山下!!!参☆上~♪ どう?びっくりした?」

 とサインペンで書きなぐってある。

 まったくもって、とんでもないことになったものだ。
 スーパーマーケットの仕掛けにはなんとか間に合った。懸念材料であった巨大便は、何者かによって既に産み落とされた後だったので、私の仕事は【Hello山下参上】の落書きを残し、洋式便器の蓋を閉めるだけで事足りた。この時ほど他人様の排泄物に感謝の念を抱いたことはない。
 踵を返して薬局へ走り、イチジク浣腸を大量に購入した。都合良くスタジャンのポケットには、皺くちゃになった一万円札が放り込まれていた。なんと聖徳太子の一万円札である。時代錯誤もいいところだ、と思ったが、スタジャンを着て浮浪者となった私にはお似合いだとも感じた。

 図書館のトイレットの仕掛けで問題になるのは「悪臭」である。あの時便器周辺に漂っていた匂いは、この世のものとは到底思えぬ程の猛烈な臭いであった。あの臭いはちょっとやそっとのウンコでは再現できまい。いかにしてあの臭いを生み出すか?

 あの臭いを生み出せるものがこの世に存在するとしたら―?

 咄嗟に思いついた答えは「ドリアン」であった。図書館へ向かう道の途中、私は果実店の店先に並んでいた、ひときわ目立つグロテスクな果実に目を奪われた。「これだ、これしかない」と確信した私は、イチジク浣腸器を購入した釣銭をはたき、ドリアンを購入した。
 そのドリアンを、大個室内で真っ二つにして、浄化槽の中に放り込んだ。とてつもない悪臭がトイレ内に充満した。止めに自らの肛門にイチジク浣腸を使用する。私の腹の中に残留していた滞留便は、タイムトリップの際に核エネルギーとなって消滅してしまっため、殆ど残ってはいなかった。それでもないよりはあった方がマシだろう。冷たい薬液が腸内に循環して息、腹部に鈍い痛みが走った。
 
 排泄を済ませてしばらくすると、ドアをノックする音が聞こえた。
 言うまでもなく「私」である。あの時の状況を慎重に思い出しながら、私は20分間息を潜めて待った。
 するとガチャガチャとノブを回す音が聞こえてきた。しびれを切らした「私」は何度もノックを繰り返している。あの日と全く同じ状況だ。とは言え「私」も、個室の中に隠れているのが他ならぬ私自身だとは思いも寄らないだろう。

「うるせえっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 私は目一杯ドスを聞かせた声でそう叫び、ドアを蹴り飛ばした。少しの間があった後、「私」は再びノブをガチャガチャやり始めた。予想通りの展開である。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛もおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお…!!!!!!」

 私は必死でキレかけた浮浪者を演じた。その後3度ドアをノックする音が聞こえ、「私」はトイレから去っていった。私はほっと胸を撫で下ろした。どうやらこの場はなんとかうまくしのげた様である。後は犯人を捜すフリをしながら、図書館を後にすればいい。 

 さて次は、私の自宅である。

                     (続く) 文責:魔王源

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2008年12月21日 21:10に投稿されたエントリーのページです。

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