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【小説】「公衆便所男⑪」

11/18 AM5:30―――

 目覚まし時計のけたたましいアラーム音が寝室に鳴り響き、私は起床した。
 外はまだ薄暗い。全身にエネルギーが漲っている。シャワーを浴び、旅の支度を整えた。

 準備は万全である、私は玄関に掛かっている愛車Lexusのキーをわし掴みにすると、ドアを開けて外に飛び出した。晩秋の冷たい空気が肌に心地良い。雀のさえずりが祝福してくれているようだ。私は思い切り深呼吸をした。
 駐車場へ向かい、愛車Lexusに乗り込む。シートベルトを締め、サイドブレーキを解除し、ブレーキを踏みしめてキーを回す。心地よいエンジン音が早朝の駐車場に響き渡る。バックミラーとサイドミラーの位置を整え、ギアをパーキング・モードからドライヴ・モードへと切り替えると、我が相棒Lexusはゆっくりと動き始めた。オートマチックトランスミッションがギアを2速・3速・4速とチェンジしていき、徐々にスピードを上げていく。Lexusの洗練されたボディが空を切り裂く。

 心躍る旅の始まりである。カーステレオのヴォリュームを最大にし、ジョージ=ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」を流しながら国道16号線を時速73Kmで疾走する。対向車線を、ウーファーを搭載したVOXYが浜崎あゆみの「M」を爆音で流しながら通り過ぎていった。いつもなら舌打ちのひとつでもしている所だろうが、今日の私は一味違う。
 私には明確なミッションが存在する。それは【Hello山下の捕縛】である。Hello山下を縛り上げ、一泡吹かせてやれば、どんなに胸がすっとすることだろう。想像するだけでゾクゾクと血沸き肉踊る。脳内で大量のノル・アドレナリンが分泌されて全身を駆け巡り、私の肉体と精神を戦闘モードへと変容させていく。
 私はハンドルを握り締め、充血した目で虚空を見つめた。そこにはまだ見ぬHello山下の薄ら笑いを浮かべた憎き顔が浮かんでいた。顔がぼんやりとしており、細かな部分は判別できない。

「Hello山下ァァァァァァァ!!!待ってろよ!!!!!!」

 オーケストラの盛大な演奏に合わせるように咆哮した。最高の気分である。
 
 厚木ICでハイウェイに上がると、私はアクセルをめいっぱい踏み込んだ。愛車LexusのV8エンジンと高出力モーターが唸りを上げ、追い越し車線を疾走する。絶対的な動力性能・圧倒的な静粛性・力強い瞬発力―――プレミアム・カーに求めらる条件の全てをLexusは兼ね備えている。時刻はAM8:12。時速は122km。BGMはベートーベンの第九だ。最早誰も私を止められない。
 Lexusと私は一陣の風となり、ただ一路伊豆を目指した。


 が、ハイウェイを疾走していると、突如ウンコがしたくなった。その時絶妙なタイミングで「P」マークの交通標識が目に飛び込んできた。パーキングエリアである。私は方向指示器を左に点灯させ、鮮やかなハンドリングで左の車線へと移動していった。1km程走った後、私とLexusはパーキングエリアへ吸い込まれるようにして入っていった。

 パーキングエリアは小規模なものであった。公衆便所と自動販売機が存在するだけのシケた施設である。
 いち公衆便所愛好家として、パーキングエリアのトイレットについても語らねばなるまい。はっきり言って私はパーキングエリアの公衆便所が好きではない。何故かと言うと「臭い」からだ。
 パーキングエリアの便所は臭い。それは取りも直さずパーキングエリアの便所に排泄されるウンコが臭いという事だ。パーキングエリアの便所に溜まったウンコからは、何か貧しい臭いがする。恐らくウンコの材料となっている食物が貧しいせいだろう。きっとコンビニ弁当や吉野屋の牛丼ばかり食べている者たちがここで用を足すのだ。だからウンコの臭いが貧しいのである。食に美学が無い者は、ひり出すウンコの臭いからも美学が感じられない。

 いち公衆便所愛好家として「ウンコに美学を持て」と強く主張したい。
 理想の公衆便所に巡り合い、真のデキルウンコ・スタイルを身に着けるために、私は常日頃からウンコについて考えている。朝・昼・晩と食べているものが、腸内でいかなるウンコへトランスレートされるか?私は毎日イメージする。そして、明確なヴィジョンを持って公衆便所へと向かうのだ。

 私は常に自問自答している

「今日のウンコは何色だろう?」

 と。

                      (続く) 文責:魔王源

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2008年11月30日 23:50に投稿されたエントリーのページです。

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