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2008年10月 アーカイブ

2008年10月17日

【小説】「公衆便所男⑤」

 最早、近場にこだわっている場合ではない。

 腹の中に溜め込んだ便の違和感に堪りかねた私は、隣駅まで遠征する決意を固めた。
 時刻はPM0:55である。休憩時間はあと5分で終わりだ。今頃社では始業開始5分前を告げるチャイムが鳴り響いていることだろう。

 私は会社の入っている雑居ビルの方角へと足早に歩いていった。少々汗ばんできた所で社屋に戻った。私は颯爽とエレベーターに乗りこみ、6階で降りるとオフィスとは名ばかりのタコ部屋のドアを勢いよく空けて入り、部署のリーダーに

「どうも体調がすぐれないので、午後休を取りたいと思います。」

 と、吐き捨てるように言った。
 私より8つ年下のリーダーは満面の笑顔で「どうぞどうぞ!」と答えた。

 正直なところ、部署内での私は微妙な立場にある。43歳の私は部署で最年長だ。3年前まで私は、日本屈指の大企業であるA電気に勤めていた。今勤めている会社は「株式会社BEFREE」という。BEFREEはA電気の系列下にある中小企業である。一応、独立した会社ということになっているが、その実体はA電気の子会社である。
 A電気ではBFREEを「姥捨て山」と呼んでいた。A電気での派閥抗争に破れた者や、使い物にならないが労働組合が強すぎるために首を切るわけにもいかない、ニッチもサッチもいかないダメ社員が左遷されてくる。言わば「人間最終処理場」というのが、我が社「BEFREE」の主な役割だ。このイヤな役まわりを果たす変わりに、A電気から巨額の発注を貰って会社はなんとか存続している。
 かく言う私も人間産業廃棄物のひとりである。日本屈指の有名大学Y大を出て、日本屈指の大企業であるA電気に入社したはいいものの、真剣に仕事に取り組む気など全くなかった。
 子供の頃の私は、両親の「いい大学を出ていい会社に入れば一生幸福になれる」という言葉をひたすらに信じて学習塾に通い、偏差値を上げることだけを考えて生きてきた。何の楽しみも無く、ただただ辛いだけの青春を私は送った。

「有名大学を出て、有名企業に入れば後は何の苦労もしなくていい」

 私はそう固く信じていた。それなのに、A電気に入社した私を待ちうけていたものは、過酷な出世競争と煩わしい人間関係だった。
 私は「有名企業に入る」という人生の最終目的を達成した時点で、完全に燃え尽きていた。もうこれ以上は一切頑張りたくなかった。だから会社に行ってもソリティアとマインスイーパーに明け暮れるだけの日々を送った。
 当然上司や同僚からの叱責は受けたが「絶対にクビにはならない」という確信だけはあった。日本屈指の大企業であるA電気の労働組合は、日本屈指の規模と絶大な影響力を誇る。プロパーのクビを切るとなればA電気の労働組合は黙ってはいない。だから私は、まったく仕事をしなくれも解雇されなかった。様々な部署をたらいまわしにされた後、現在の会社「BEFREE」に左遷されて今に至る。
 現在の会社でも、私はソリティアとマインスイーパーに明け暮れている。それでも部署のリーダーは私に何も言わない。BEFREEにしてみれば、私はA電気という最大のクライアントのOBである。私を解雇してA電気と揉め事になるような事だけは避けたいのだ。だから私は特に仕事をすることもなく、ただ椅子に座っているだけで月38万円の給料を貰っている。
 薔薇色の人生だ。まさに【BE・FREE!!】である。
 
 が、そんな事はどうだっていい。私とって大切な事は理想のトイレを発見し、気持ち良くウンコをすることだけだ。他の事はどうだっていい。なんとしても便秘だけは避けなくてはいけない。会社などどうなろうが知ったことではない、そんなことよりもウンコである。ウンコ。ウンコ。ウンコ。ウンコ。ウンコ。早く最高のトイレットに巡りあいたい。そしてゆっくりと、リラックスしながら、大腸を通過して直腸に辿り着いたウンコを肛門からひり出すのだ。
 嗚呼、早くウンコをしたい。それだけが私が生きている理由・死なない理由である。誰が何と言おうと私は譲らない――快適なトイレット&排便ライフこそが、人生のクオリティを左右する最重要ファクターである。それ以外のことは、所詮は泡沫の夢に過ぎない。

 などという事を考えながら、私は駅のホームで電車が来るのを待った。


                   (続く)               文責:魔王源

2008年10月20日

多摩湖自転車道路

自転車で多摩湖自転車道路を走ってきました。
多摩湖自転車道路は、多摩湖から武蔵野市の浄水場まで走る水道管の上に施設された自転車・歩行者専用の道路です。

多摩湖を下るときにちょうどクライマックスシリーズをやっている西武ドームの横を通りかかり、大自然に囲まれた中の歓声は鳥肌モノでした。


今回はこんな感じです。

2008年10月25日

【小説】「公衆便所男⑥」

※食事中の方は読むのをご遠慮くださいw


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 理想のトイレットを求めて、私は会社の隣駅までやって来た。わざわざ電車に乗ってまで来たのである。今度こそワンダフル排便ライフを堪能しなければ気が済まない。今や私の全集中力は、腹の中に溜まったウンコを排出することのみに注がれていた。
 
 私が向かったのは図書館であった。図書館という場所は、大概においてトイレット・インフラが充実している。私はそこに狙いを定めた。
 しばらく歩いていくと、閑静な住宅街の中に佇む無駄に立派な建築物が見えてきた。目的地の図書館である。この街に住む住民は小金持ちばかりなのだ。行政機関は奴等からたっぷりと税金を搾り取っているらしい。図書館の建物には湯水の如く税金が投入されているのがありありと見て取れる。無意味な空中回廊・無意味な中庭・無意味な屋上庭園などが敷設されたその図書館へと私は入っていった。

 平日の図書館は人気がなく、老人と主婦とその連れ子、といった風体の連中が数名存在しているだけだった。
 そんな中を、明らかに浮浪者と思われる輩が一人、ニヤニヤしながら館内を徘徊している。実に不愉快である。昼間から働きもせず、税金も払わない非国民が、我々の血税によって建築された公共建造物の中をうろついている、というのは真に腹立たしい。
 私は説教のひとつでも垂れてやろうと思ったが、既のところで思い留まった。このご時世、あの手の輩はいつ何時刃物を振り回して暴れだすとも知れぬ。君子危うきに近寄らずである。いい年をしてスカジャンなど来ている人間は、放置しておくに限るのだ。

 そんなことよりもトイレットである。何よりも大切なことはウンコなのだ。私は気持ちのスイッチを切り替え、最終目的地であるトイレへと向かった。しかし、ここでも私を災難が待ち受けていたのだ。
 その災難とは【満室】である。
 うすうす覚悟はしていた。公共機関のトイレは設備に十分な公的資金が投入されているため、極めて快適で清掃も行き届いている。またスーパーマーケットのような商業施設敷設のトイレ使用時に感じる「何か買わなければ」という気負いもない。従って公共施設敷設のトイレは、公衆便所マニアにとって絶好の排便スポットなのだ。
 加えて【図書館】という場所のトイレには、他の公共施設敷設のトイレに比べて利用率が著しく高くなる理由が存在する。
 どうやら人類には、本の匂いを嗅ぐとウンコがしたくなる性質があるようなのだ。この為に図書館のトイレには利用者が殺到する。原因に究明されてはいないものの、同様の現象が全国の書店でも確認されており、統計学的な見地から書物とウンコの間に何らかの因果関係が存在することは明らかだ。最先端の科学をもってしても解明できない謎がここには存在する。まさに現代に残された最後の神秘と言えよう。

 話が脇に逸れたが、ともかくトイレは満室であった。私はイライラしながらトイレが開くのを待った。

 私は満室のトイレに遭遇した際、余程のことがない限り「その場に居座り、トイレが開くのを待つ」という選択を心がけている。滅多なことでは移動しない。
 満室のトイレに遭遇した際に、すぐさま別のトイレを探そうとする愚か者がいるが、これは明白な愚行である。そのような尻の軽いものは決して大成しない。満室のトイレが開くのを待つことさえできぬ者は、その人生において何事をも成し遂げることができないと私は固く信じている。
 何故かといえば、満室トイレの付近に存在するトイレは、同様に満室である可能性が極めて高いからだ。軽々しく移動してしまうと、そこに待ち受けているのは【さらなる満室】である。おとなしくその場で待っていればすぐに空くものを、移動してしまうと他者に席を譲ってしまう羽目になるのだ。移動を繰り返していると最悪の場合「満室スパイラル」に陥ってしまうことだってある。よってこのような状況下においては、動かざること山の如しの心境で腰を据え、じっと待つことが肝要である。

 ところが、10分が経過し、20分を過ぎても大個室のドアは閉ざされたままだった。しびれを切らした私はドアをノックしてみた。
 が、何の返答もない。
 そこで私は何度かノックを繰り返し、ドアノブをガチャガチャと回してみた。すると、

「うるせえっ!!!!」

 という声と共にドカッとドアを蹴る音が聞こえた。男の神経質そうなその声はトイレット中に木霊した。
 それを聞いた私は男に対する憎悪を抑えきれなくなり、ガンガンとノックを繰り返し、ドアノブをガチャガチャと回し続けた。この反撃に

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛もおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお…!!!!!!」

 と男は喚いた。
 危険な兆候である。よもすれば男は刃物を所持しているかもしれない。とかく近頃の世間は物騒である。
 私はとどめとばかりに、もう3回だけドアをノックした。その後急いでトイレットから脱出を図った。

 私は暫くの間本でも読んで待つことにした。ちらちらとトイレの方を見やっていると、目を血走らせた浮浪者風の男が、辺りを見渡しつつ出てくるのを確認できた。やはりあの手の輩である。脱出した私の選択は正解であった。
 男は「チキショウチキショウ」という言葉を呪文のように繰り返しながら図書館を出て行った。

(しめしめ。うまくいったぞ・・・!)

 私は心の中でガッツポーズと万歳三唱を4度繰り返し、意気揚々とトイレに戻った。

                   (続く)            文責:魔王源

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