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小説【公衆便所男②】

 次に私は、駅向かい―即ち線路を挟んで反対側に敷設されている便所を目指した。身障者用のトイレを利用するという選択もあったが、遠慮することにした。私のトイレット趣味の為に身体の不自由な方に迷惑をかけるような事があってはならないという、私ならではのジェントルマン的な配慮故である。
 それに加え、あの広い空間で用を足すのはどうにも落ち着かない。便所の個室たるもの、面積は1.44平方メートル以内であるべきである。これ以上に広いと、私はリラックスできない。四方を壁に囲まれた、息の詰まるような感覚が良いのである。
 だいいち、下半身を露出した状態で身障者用トイレのような広い空間に座っていると、空気の対流が股間を通過していき、スースーして仕方がないのである。ただでさえ私はブリーフ派である。トランクスと股間の間に発生するわずかな空間に入り込む大気にさえ耐え難い不快感を覚える私が、あのスケールに忍耐できるはずがない。

 話が脱線した。
 駅向かいの便所の話である。
 言い訳がましく思われるかもしれないが、その便所は、話を脱線させなければ精神が崩壊してしまうほどの、凄惨な状態にあったのだ。
 個室のドアを開けた瞬間、思わず目を背けたくなるほどの無惨な光景が、私の目に飛び込んできた。向かいの便所とは清掃員が別人なのだろうか。こちらの方は極限まで汚れきった状態で放置されていた。
 そこは和式便所であった。床にはトイレットペーパーが散乱している。片隅には水に濡れてガビガビになった男性週刊誌が転がっており、便器前方にはタバコの吸殻が捨てられていた。極めつきに後方には、便器からはみ出した人糞がべったりと付着している。人糞はもう何日も放置されているのであろう―すでに干からび始めており、周囲を小蝿がブンブンと旋廻している。

 「ぐううううっ・・・!」

 嫌なモノを見てしまった。
 私は猛烈な吐き気に襲われ、掌で口と鼻を覆った。

 一体どうやったらこんな有様になるのか?一体、どんなウンコの仕方をしているのか?どんな排便教育をされたらこのような惨状を産み出すウンコ人間に育つのか?まったくもって両親の顔が拝みたいものである。
 近頃の若い奴等は、ウンコひとつ満足にできないのか?
 何故、ウンコが便器からはみ出すのか?
 何故、ウンコを便器からはみ出させたまま放っておくのか?
 仮にも文明国であり、世界屈指の先進国にして経済大国である「日本」という国家に生を受けておきながら、この排便マナーの悪さはどうしたことか?否、それ以前にいち人間として、霊長類たるホモ・サピエンスの一人として恥ずかしいとは思わないのか・・・!?
 私の行き場の無い怒りは、燃え盛るばかりであった
 
 その時である。ふと壁を見やると、見覚えのある文字が私の視界に入ってきた。

 【Hello山下☆参上だよーん!!!\(^o^)/】

 またもやHello山下である。
 Hello山下・・・一体何者なのだろう。よもや、コイツがウンコはみ出し事件の真犯人なのか。もしかすると、先ほどの便所でトイレットペーパーがなくなっていたのもコイツの仕業なのであろうか?
 兎にも角にも許せない。人を馬鹿にするにも程がある。私は真剣に「排便」という行為と向き合いたいのである。神聖なるトイレットの壁面に落書きをするなど許される行為ではない。神の天罰を受けよ、塩の柱となってこの世から消滅してしまえ―――

 いつまでも消えない怒りに、二日酔いで胸焼けした私の胃はキリキリと痛んだ。
 絶望に打ち拉がれながら、私は第二の便所を後にした。

                             (続く)    
                                              文責:魔王源

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2008年09月27日 22:52に投稿されたエントリーのページです。

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