すっかり秋ですね♪ひとつ小説でもかいてみることにしました。秋の夜長にでもどうぞーー
「公衆便所男①」
私の生き甲斐は「公衆便所」である。
昼休みになると私は職場を抜け出して、公衆便所で用を足すことを習慣としている。これが唯一の趣味と言ってよい。
社内のトイレなど使えたものではない。同僚達の声がやかましいし、順番を待っている人間がいる、あまり長く便所に滞留すると「アイツはウンコが長い」などと噂される…などと考え始めると、とてもではないが排便する気になどなれない。社畜として自由を奪われた身分である。ウンコくらいのびのびと、十分に時間をかけてしたい。
だから私は、誰の邪魔も入らない、理想のパラダイス便所を求めて街へと繰り出す。
が、なかなかに良い便所は見つからない。公衆便所たるもの、常に清潔でなければいけない。壁に落書きが見られたり、タイルの隅にカビが繁殖していたりいるようでは問題外である。清掃は常に微に入り細部を穿つかのごとく、完璧でなくては駄目だ。他人のウンコがこびりついているような便器では、最高の排便ライフを満喫することなど夢のまた夢、である。
他にも個室の占有面積や臭いなど、私が公衆便所に関してチェック項目として揚げた項目は実に36もあるが(私をそれをエクセルで表にまとめ、常に携行することにしている)解説し始めると、数時間に渡る長口上となることは目に見えているので、この位で留め置くことにし、そろそろ本題に移ろう。
ある日の事だ。昼休みを告げるチャイムが鳴り響くと同時に、今日も今日とて「公衆便所」という名の楽園を求めて勢いよく会社を飛び出した私だったが、この日は私のトイレット人生において最悪の日となってしまった。
便所の神は私を見放したのだろうか。その日私は神を呪った。
会社を出て私が始めに向かったのは、駅前に敷設された公衆便所であった。清掃員の心がけが良いのか、常に清潔に保たれている。サンポールの鼻をつく塩素臭が実に快い、お気に入りの便所であった。この時間帯は人の往来も少なく、私の便所に進入してくる不届きな人間も少ない。
このため私はこの便所に、一週間に3度はお世話になっている。最低でも30分は滞在し、瞑想をして呼吸を整えたあと携帯を取り出し、mixiにログインし、友人の近況などに他愛も無いツッコミなどを入れながら「排便」という行為を心行くまで楽しむのである。
ところがこの日はいただけなかった。紙が無いのである。ドアを空け、意気揚々と個室に乗り込んだ私の目に始めに飛び込んできたのは、ホルダーの中心で芯だけになったトイレットペーパーがカラカラと空しい音を立てて空転している光景であった。
悔しさのあまり私は「チッ」と、便所に響き渡るような、大きな音の舌打ちをした。これで私の第一の計画が台無しになってしまった。実に不愉快である。
おまけに今日は、ドアに落書きまでされている。
【Hello山下参上~☆】
と、知能指数の低そうな字ででかでかと描かれているのである。
(何が【Hello山下参上~☆】だ!!ふざけるんじゃない!!!!!)
と、私は危うく激高しそうになった。しかし、血圧が上昇するといけないので深呼吸をし、すんでのところでこの行き場の無い怒りを納めた。血圧に関しては、初夏の健康診断で「要注意」のイエローカードを貰ったばかりである。このことを重く受け止めた私は、帰宅後唯一の楽しみだった晩酌(300ml発泡酒2本)を週5回から週3回にまで減らしたのだ。こんなくだらないことで怒りを爆発させて血圧を上昇させてしまっては、私の血の滲むような努力が無駄になってしまう。こんなことでクヨクヨしてはいけない、前向きに生きるのだ―――Let'sポジティブシンキング・・・!!
そう自分に言い聞かせながら、私は第一の便所を後にした。
(続く) 文責:魔王源
